札幌地方裁判所 昭和51年(わ)141号 判決 1976年5月24日
本籍
北海道苫小牧市綿町一丁目一〇五番地
住居
北海道沙流郡門別町富川三八六番地
医師
上野久仁男
大正六年九月二〇日生
事件名
所得税法違反被告事件
公判出席検察官
細田美知子
主文
被告人を懲役一年及び罰金一、六〇〇万円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判が確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、住居地において、上野病院という名称で病院を経営しているものであるが、所得税を免れようと企て、現金収入の一部を除外し、あるいは架空経費を計上し、簿外預金を設定する等の不正な方法により所得を秘匿したうえ
第一 昭和四七年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度において、実際総所得金額が四、三六二万〇、三〇〇円であり、これに対する所得税額が一、九二九万〇、四〇〇円であるのにかかわらず、同四八年三月一四日、苫小牧市旭町三丁目四番一七号所在の所轄苫小牧税務署において、同税務署長に対し、総所得金額は二、四六〇万〇、〇四七円であり、これに対する所得税は、七八二万六、四〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もつて被告人の右事業年度の正規の所得税額と申告額との差額一、一四六万四、〇〇〇円を免れ
第二 同四八年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度において、実際総所得金額が五、九一三万九、三七〇円であり、これに対する所得税額が二、七九一万五、三〇〇円であるのにかかわらず、同四九年三月一四日、前記税務署において、同税務署長に対し、総所得金額は二、八四四万六、六四六円であり、これに対する所得税額は、八九二万五、九〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もつて被告人の右事業年度の正規の所得税額と申告税額との差額一、八九八万九、四〇〇円を免れ
第三 同四九年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度において、実際総所得金額が九、〇一一万九、〇五〇円であり、これに対する所得税額が四、六五〇万九、三〇〇円であるにもかかわらず、同五〇年三月一五日、前記税務署において、同税務署長に対し総所得金額は三、九九三万七、九八五円であり、これに対する所得税額は一、二七二万四、〇〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もつて被告人の右事業年度の正規の所得税額と申告税額との差額三、三七八万五、三〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示事実全部につき
一、被告人の当公判廷における供述
一、被告人の検察官に対する供述調書
一、被告人の大蔵事務官に対する各質問てん末書
一、藤本留吉、鈴木佳哉、樽本弘子、吉田正一の検察官に対する各供述調書
一、藤本留吉、鈴木佳哉、高岡進、安藤重信、新居うたえ、増岡昇八、樽本弘子、佐藤敬直、吉川三郎、北原忠男、粟飯原義市、吉田正一の大蔵事務官に対する各質問てん末書
一、大蔵事務官江口貞夫ほか一名作成の調査事績報告書と題する各書面
一、検察事務官作成の電話通信書
一、押収してある所得税の確定申告書綴一綴(昭和五一年押第七七号の1)、青色申告者書類綴一綴(同号の2)、金銭出納帳三冊(同号3の1及び2、4)、収入帳六冊(同号の5の1ないし5、及び6)及び棚卸表二綴(同号の7の1及び2)
(法令の適用)
一、判示各行為 所得税法二三八条一項、二項、一二〇条一項三号(各罰金刑併科)
一、併合罪加重 刑法四五条前段、懲役刑につき四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第三の罪の刑に加重)罰金刑につき四八条二項
一、労役場留置 同法一八条
一、刑の執行猶予 同法二五条一項
(刑の事情)
本件は、判示のとおり三年間にわたり合計金額六、四二三万余円におよぶ多額の所得税をほ脱した事案であつて、犯行態様も、被告人経営の病院の診療費等の収入に関し、従業員に裏帳簿の作成を指示してこれを除外し、あるいは人件費、薬品納入価格等の架空経費の計上を指示し、簿外預金を設定するなどの方法により所得を秘匿したうえ税務署長に対し虚偽の青色申告をして、ほ脱率六割をこえる所得税を不正に免れたもので、右ほ脱金額期間、手段方法等いずれの点からみてもその犯情は極めて悪質であり、被告人の刑責はこれを軽く考えるわけにはいかない。しかし、被告人は本件発覚後は犯行を反省し、ほ脱税、重加算税、延滞税等もすでにその殆んどを納付している事実も認められるので、右諸般の情状を考慮し、被告人に対しては主文の刑を相当と思料する。
よつて主文のとおり判決する。
昭和五一年五月一四日
(裁判官 上原吉勝)